LIFE,LOVE&PAIN

LIFE,LOVE&PAIN

タイトルは Club Nouveau の80`sのアルバム名。人生っていろいろあるよね。
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悲しい忠告

20070331103021
昨晩、とても悲しいことがあった。

妹に、「買ってくれた超マイクロミニ、看護師さんに見せたらすごくびっくりされたよ」と喜んで報告すると、意外にも彼女は、
「病院でエロい格好するのはマナー違反。周囲の迷惑をいっさい考慮しないあたりがゆみさんの悪いところ。世間とのバランス取ってね。」
と忠告してきたのだ。

周囲の迷惑をいっさい考慮しないって、どういうことだろう?…いっさいって…。

妹はどうやら、わたしがそれを院内で着ていて、看護師さんにエロい格好はやめてねと暗にほのめかされたと読んだようだが、そんな空気ではまったくなかった。「こんなのが流行るなんて信じられな~い!!」と看護師さんがあててみせるのを、二人で笑っていたのだ。

なによりも、「周囲の迷惑を考慮しない」と一方的に決めつけられたことが、わたしにとってひどいショックだった。
迷惑を考慮しないなんてとんでもない…正反対だ。
わたしはもう、8年間も病気で働いていない。少ない親の年金を食いつぶしていまも生きている。
そのことで、この数年間、毎日苦しくて辛くて情けない思いで身を縮めている。
自分が周囲に多大な迷惑をかけていることは、言われるまでもなく自分がいちばんよく知っている。
それなのに、追い討ちをかけるように「周囲の迷惑をいっさい考慮しない、そこが悪い」だなんて……。

わたしは泣いた。
病室だと迷惑なので、ナースステーションで看護師さんに事情を話して泣いた。
迷惑な人間、世間とのバランスが上手くとれない人間。
好きでこうなったわけじゃない。
そして、服をタダで譲ってくれる妹に、わたしは強く言うことさえ出来ないのだ。

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誕生日の夜

20070329215132
今日はわたしの42歳の誕生日。
…なのだが、ケーキもワインもやらず、9時に消灯されて病室ベッドでぼーっ。

なんかやっぱり、つまらんな。
サプライズを求めて、院内を歩きまわるか?

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恐怖の幽霊部屋

20070328130201
まえに、病院のなかに恐怖の幽霊部屋があることを書いたが(2/27『血しぶきの夜』)、某個室にいるIさんが昨日何気なく、
「この病院に入ってすぐの晩、ふとベッドの側に3人立ってるのを見ましたよ」
と言うのである。

「え?えええ?!!」
「一人はうちらと同じくらいの歳の男で縞パジャマ、あとの二人は若い女の子…」
「で、女の子はなに着てたん?!」
一気にテンションの上がったわたしの質問もどっかおかしい。
「女の子もパジャマ…普通のパジャマ」
幼い頃からこうしたものをよく見るというIさんは、いつもと同じようにつまらなさそうに話す。

「普通だったらね、わたしは幻覚あるし、そういうの見たって言ったらドクターに伝えますって話になるじゃないですか?でもそのときは看護師さん、すごくびっくり動揺して《Iさんはそういう霊とかよく見るの?》って聞くんですよ」
「げー!?」
「そしたらなんか、ナースステーション全体が異様な雰囲気になってしまって…」
「ひゃー、前例があるんだ!?」
「まだ他にも話があるんですよ。…ほら数日前、夜中にバタバタ音が聞こえたってわたし言ってたでしょ?あれ、他の個室患者さんも別の日に聞いたらしいです」
「へー!?」
「個室患者さん、必死になって看護師さんに、《ほかにも音がするって言ってる人いますよね?》って言ってるのに、看護師さん、頑として《誰もそんなこと言ってません》やって。嘘ですよ~~!!」

Iさんは自分の奇妙体験よりも、看護師さんたちが事実を隠そうとすることに関心を持っているようだった。
わたしなら、もし病院のベッドに立つ幻の3人(1人でもだ!)なんかを見てしまったら、なにがなんでも即、部屋を変えてもらうだろう。そんであちこちで大騒ぎして自らの恐怖体験について触れまわり、ついでに間違いなくブログのネタにするだろう。

「幻覚のヘビとトカゲと毛虫は怖いのに、そういう人らは怖くないわけ??」
わたしはIさんの不思議を探究しようと尋ねた。
Iさんは笑いながら即答した。
「だって、あの人らはただ挨拶しに来たって感じやったから。ヘビとかトカゲは嫌ですよ~~!」

うーん…?Iさんの価値観ってやっぱりワカラナイ。

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見えない他人

20070327071121
「いつまで入院予定なの?」
同室のSさんに夕方、服薬のあとで訊かれた。
「さあ?今日の診察では、もう少し様子を見ようって言われましたけど」
わたしはカーテン越しに服を着替えながら軽い調子で答えた。
1ヶ月前に入院した当初に比べ、はるかに体調はよくなっている。経験的にはあと2~3週間ってところじゃないだろうか??

ところがSさんは信じられないといった様子で言った。
「え?…でも、あなたみたいに元気で若くて綺麗にしている人が鬱病なんて…?」

まるで、あなたが鬱病だなんて嘘でしょとでも言いたげな口調に、わたしは一瞬凍りついた。
なんだ、全然元気そうじゃない?どこが悪いの?鬱病だなんて信じられない…過去数年間、何度も傷ついてきた言葉だ。
この人は今まで、わたしをなんだと思っていたのだろう。

「わたしはこんなにたくさん薬を飲んで、寝てるばかり…。あなたたちはまだ若いからいいわね。そっちのお嬢さんも…」
そっちのお嬢さんとは、Tさんのことだ。彼女はまだ20代前半なのに、拒食症という辛い病気でずっと闘っている。どこがうらやましいって言うんだ?!
病歴だって、自分はまだたったの1年じゃないか。

「わたしも前はかなりひどかったですよ」とわたしは反撃した。
「どんな感じだったの?」
「歩けない、しゃべれない、食べれない、眠れない」
Sさんは無言だった。
きっと想像がつかなかったのだろう。

「まあ、ゆっくり寝てるしかないですよ」とわたしは言った。
「わたしはこんなに薬を飲んで…もう駄目だわ」
それでもSさんは、自分が悲劇の中心だった。
薬ってったって、少なくとも一つは風邪薬だったじゃないか。わたしがひどかったときは、もっと大量に飲んでたわよ。周囲でもそんなのべつに珍しくもなかったわ。

Sおばさんの悲観論にイライラしたわたしは、個室のIさんを訪ねてそのことを愚痴った。
Iさんは「もーあの人、まだら呆けがあるみたいやし、しんどいのはみんな一緒ですよ~とか言っとけばいいんじゃない?」とのんびり言った。たぶんそれが正解なのだろう。

それにしても思うことは、こういう病院に入院しているんだから、全員が何らかの地獄を抱えているってことだ。
「あなたは楽でいいわね」はもう、絶対禁句と言っていいと思うのである。

《オマケ》
Sさんは今晩もスヤスヤと熟睡している。どこが鬱病なんだってこっちが聞きたい!

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Iさんとヘビと毛虫

20070325075514
病院から2泊3日の外泊を終えてきたIさんに、わたしはどうだった?と尋ねてみた。
「しんどかった…!」
そりゃそうだろう、大阪の南と北を縦断したんだから。

「それで、幻聴は治ってきたの?」
「それが、今度は幻覚まで出てきて」
Iさんは自分の症状をおかしそうに話す。事態を深刻に受け止めていない様子だ。
「昨日夜、目が覚めてみたら、ヘビと毛虫みたいなのが並んでてん」
「嫌じゃないの?そういう動物」
「嫌ですよ~!!」
Iさんは当たり前じゃないかといった調子で笑った。

看護師がそこへやって来て同じような質問をしたが、看護師は神妙な顔つきでそれを聞いていた。だがIさんときたら、「なんかじっとしてられなくって」直前までふらふらと踊っていたので、それまで問診票?にカリカリと書かれてしまっていた。

「それで、昨日はなにが聞こえたの?」
看護師が去ったあとで、わたしは興味津々でIさんに尋ねた。
不謹慎だが、Iさんとともにわたしは幻聴をネタに少しばかり喜んでいる。あはは、なんだよそれ?という具合に。

「昨日は、また三味線」
Iさんはちょっとつまらなさそうだった。
「あとなんか人の声かな?」
「またFM放送?」
「FMじゃなくて、普通の人の声…《やめろ》って言うねんけど、なにをやめろって言うのか…思わず突っ込みそうになったわ」
「返事して独り言言いなや」
「返事しそうやわ、ほんま~~」

あんまり症状が思わしくなさそうだなあとわたしは思った。
最初は音楽がたまに聞こえてくるだけだったのに、次はDJ付きFM放送、その次は深夜のナースコールとドタバタ音。同じ時間にわたしも起きていたし、看護師もそのような事実はないと言ったそうなので、たぶんそれもIさんの幻聴なのだろう。

「次はなにが見えるんやろな、期待してるわ」
「あはは」

Iさんの幻覚・幻聴のための薬は先日処方されたが、効くまで1~2週間かかるという。
それまでに深刻な幻聴が出なければいいのだが…、死ね、殺せはほんとうに怖いものらしいのだ。それで暴れる人だっている。

「あ、洗濯終わったかな」と半分踊りながら歩いていくIさんに、わたしは「風呂入ってくるわ」と言って別れた。
Iさんの様子を見ているのは、面白くもあり少し心配でもあるのだ。

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パワフルな見舞い客

20070322141132
旧友3人が忙しい合間をぬって、休日に見舞いに来てくれた。
彼女らは独身・働く女たちで、いつも明るくパワフルである(一人のときはそれなりにいろいろあるだろうが)。

わたしは約束時間の直前までベッドで横になっていた。
彼女らの健全なパワーに対抗しなければならなかったし、夕方には風呂だってある。エネルギーを溜めておかなければあとでダウンすると思ったのだ。

彼女らが到着すると、わたしは喫茶室に案内して、地味だがお茶用の紙コップと茶菓子を出した。
彼女らからは、リクエストしておいた「心が晴れそうな下着のパンツ」を差し入れてもらった。か…かわいい!!ありがとう~。

わたしは大喜びでコーヒーのお替わりを作った。そして、平日なら院内の喫茶店が開いてるんだけど、と言うと旧友の一人が、
「じつは、一緒に外の店に行こうと思っててん」と言った。
「ちょっとお腹も空いてるし…」

一瞬虚を突かれたが、それじゃあということで、わたしは病室からジャケットを取ってきた。…が、車で移動するうちにだんだんしんどくなってきたのである。
先日恋人Sと映画を観に行ったときもそうだったが、車はスピードが速いせいなのか疲れるのだ。さらに院内とは違う会話のペース、張りのある笑い声、騒音…車のラジオのがなる音が嫌だ、消してもらいたい。でもそんなことは言えない。

そのまま近くのイタリアンレストランで、旧友たちは食事、わたしはハーブティーを飲んだ。
疲れた、ぼーっとしたい。表情も作らずに…院内ならごく普通のことだ。でもここで固まってしまったら、彼女らが不審に思うだろう。会話がつまんないような態度にしか見えないからだ。でもそうじゃない、しんどいだけなのだ。ただ、ぼーっとしたいだけなのだ。

結局わたしがしたことは、適度に会話に加わり、適度に笑顔をつくることだった。

店を出て、病棟の前で手を振って別れる。
旧友たちがわざわざ会いに来てくれたことに感謝する気持ちに偽りはない。
でも、やっぱり病人は病人なのだ。

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心理検査結果とその結果

20070320090702
診察中、担当医の扱うパソコン画面を何気なく見たら、自分が心理検査で描いた木だの家だのがスキャンされていたのでびっくりした。ナンダそれならもう少し上手く描いたのに!
それはいいとして、わたしの視線に気づいた担当医が、心理検査の結果を読みあげた。
緊張は前の入院時よりとけています、ちょっと投げやりになっています、気分が落ち込んでいます…まあ鬱ですね。
しかし、そのほかにちょこっと書いてある分析結果をわたしは読んでしまった。――衝動的に行動することがある。――
よくそんなことまでわかるなと感心していたら、その日の夕方、早速わたしはそれを実践することになる。

鬱病患者ばかり5、6人を集めて鬱病とその薬について勉強する《おくすり教室》でのことだった。
20分ほどかけて、薬剤師さんがテキパキとそれらの基礎知識について説明する。その後彼女はこう言った、
「次回はもっといろんなことをやっていきますから、なにか知りたいことがあればどんどん言ってくださいね」
――この言い方のどこに問題があるだろう?
しかし、管理職にいたと自慢の一人のおっさんが口を開いた。

「あなた、そんなん言うけどもやね」
鬱病のせいか、言葉はややモソモソしている。だが彼の物言いは部下を叱る上司のそれのように尊大なのだった。
「僕なんかこんなんなったこと初めてやからね、《なにか知りたいこと》なんて言われてもわからんわけ。だから今のその言い方は間違ってる」

わたしは耳を疑った。いったいどういう論法なのだ?これは難癖とかインネンと呼ぶものではないのか。

「すみません」と薬剤師は謝った。とりあえずそれがセオリーなのだろう。
しかしそれで自信をつけたのか、おっさんはますます独自の考えを展開していくのだった。
「薬なんか言うてもどうせ当てずっぽなんやろ?合えへんかったら次変えるっちゅーようなもんや」
「いえ、当てずっぽうというわけでは…」
「こんなんやっとるけど、だいたいはまぁぶつぶつぶつ…」
そのやりとりを聞いていて、わたしはかなーりイライラしてきた。
あのねえ、精神薬は服用してみないとどんな作用・副作用が出るかわかんないことくらい、病歴が長い人ははみんな痛いほど知ってるわけ!だからこうして少しでも勉強して試行錯誤してるんじゃないか。鬱病初心者が鬼の首を取ったかのようごねてんじゃねーよ!!

おっさんはそれでも追撃をやめず、ボソボソネチネチと主張し続けるのでわたしはついに爆発した。

「うっさい!!!」

スタッフの一人がああ、疲れましたねとフォローを入れた。ほんとうに疲れた。鬱病患者って時折うっとうしい存在であることは知っていたけれど、あんなに顕著だとは思わなかった。

こうして、早くもわたしは、心理検査の妥当性を証明してしまったのである。

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『デジャブ』を観る。

20070319115749
昨日は日曜日だったので、恋人Sが病院に来てくれた。
TVに飽きて「英語の映画が観たい!」とかねてから思っていたわたしは早速、シアターに連れていってもらう。

狙いは公開中の『デジャブ』である。こういうサスペンスアクションが観たかったのだ…『24』とか病院でだらだら観れたら幸せなのになー。

ところが、院内では比較的元気なわたし(だと思っている)なのに、出かけようと車に乗るともうしんどいのだった。周りのスピードが速すぎるのだ。
病院にいたら、院外から来た人はすぐわかる。カッツンカッツン足音を勢いよく鳴らして動きが速くエネルギーを発散しまくっている。だから、誰かのところに複数で見舞い客が来たりするとしんどいんだよね…話がそれたけど。

それで、車中ですでに疲れてしまったわたしは、これから映画なんて観れるのか?と不安になった。落ち着くようにため息をつく。エネルギーを節約しながらゆっくり歩く。あまり多くを見ないようにする。…

映画を観ている最中は疲れを感じなかった。むしろ、恋人Sが「頭が痛い」と言っていた。
映画の感想は…うーん。悪くないんだけど、主役はデンゼル・ワシントンでなくていいんじゃないかな…。もっと若くて無鉄砲なイメージをもつ役者さんの方がいいなあとわたしは思った。

それで、ここまでは昨日のはなしだが、今日は朝からダウンである。
やっぱり過負荷だったのかなあ…たかが映画一本で。
じつは終了間近のある絵画展を観たくてたまらないのだが、この調子ではどうも厳しい感じがしている。

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自覚症状と他覚症状

20070317090421
いま院内でいちばん交流のあるIさんは、一応鬱病だが躁病にもなったことがあるという。そして「幻覚・幻聴も少しある」とのことである。持っている病気は鬱病だけではなさそうだ。ちょっとややこしい。

「大部屋だとトラブル起こすからって担当医に個室にされたんですよ…」
「へえ~?」
正直なところ、わたしには落ち着いていておとなしいIさんが他人とトラブルだなんて想像出来なかった。
「躁が出ることを想定したのかなぁ?」とわたし。
「………」
Iさんの言葉は時折、小さすぎて聞こえない。つぶやくように窓の外を見ながら話し続ける。
「昨日はビートルズが聴こえてきて…それでわたし、隣の部屋二つを見に行ったんですよ」
「へえ?」
幻聴が自分のものだと信じられなくてあちこち覗きまわるって、統合失調症の患者さんなんかがよくやることだ。わたしは笑いながら、それ医者に言った方がいいよと忠告した。
しかしIさんは幻聴をあまり問題視していなくて、「アレルギー体質なのに薬を増やすのはちょっと…殺せとかいう幻聴だったら怖いけど」と言って、幻聴を積極的に治す気はないのだった。

本人が苦痛に思っていないのなら、それは治す必要はないのかも知れない。だがわたしは、小刻みに震えながら独り言のようにつぶやくIさんを見ていると、なんだかまだ退院は遠そうだなあという気がした。

「わたしなんか、べつに入院するほどのものでもないのに…」と小さく笑いながらIさんはそれでも言う。
「わたしも自分でそう思うよ」とわたしは笑ったが、それももしかすると思い違いなのかも知れない。
精神疾患ってなかなか自覚出来ないものだと聞くけれど、Iさんを見ているとほんとうにそうだと思う。

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大浴場の巻

20070315161049
精神疾患…といってもいろいろあるが、わたしのもつ鬱病その他、症状のためにあまり風呂に入れない人が多い(シャワーなどで済ませる)。
そういうわけで、この精神病院も大浴場は週4日しか開いていないにも関わらず、いつも空いていて快適なのだった。

今回軽い症状のわたしは、風呂に入るのを楽しみにしている。
それでも大浴場が開いた瞬間は人が多いと聞いたので、だいたい開いてから20分後くらいに出かけていたら、いつもなんとなく同じメンバーと出くわすようになった。

毎度楽しそうに歌を歌っている二人がいる。そうかやっぱり風呂には歌だななんて思っていたら、昨日はそのうちの一人(Aさん・仮)に出くわした。大浴場にほかには誰もいない。

がらりと入ると、「△◆◎□?」と話しかけられる。でもこの人、薬の副作用のせいなのかなんなのか、しゃべっている内容が不明瞭なのだ。
わたしは答えず「こんにちは」と言った。
「こんにちは」と彼女も返してくる。その後彼女は、頭のなかの誰かと一人でしゃべっていた。なにを話しているのかはわたしにはわからない。

そのうちAさんは身体を洗い終わって大浴槽に浸った。すると新たに二人が入ってきて、Aさんはそのうちの一人(Cさん・仮)に話し始めた。どうやら知り合いらしい。
Cさんは少し相手にしていたものの、すぐに「なに言うてるかわからん!」と頭をがしがし洗いながら邪険に言い放った。Aさんはめげずに話しかけ続ける。最後にCさんは「あーもううるさい!」と言って、それから大浴場に静寂がやって来た。

わたしは身体を洗い終わり、楽しみの浴槽に浸った。あー気持ちいい!
わたしには変な癖があって、大浴槽に入ると必ずほふく前進したくなるのだが、このフレンドリーなAさんなら許してくれるだろうと思って、彼女の目の前を横切ってそれを一往復した。あー気持ちいい!

「泳いでんの?」とAさん。
「歩いてるねん」とわたし。
「×△■○?」
「気持ちいいよ」
「あ、そう?」
「うん」

満足したわたしは浴槽から上がり、大浴場をあとにした。
その後、脱衣室にCさんらが入ってきて、Aさんの悪口を言い合った。まーずっと一緒にいたらストレスがたまることもあるのだろう。心当たりもあるので、わたしはCさんらを責めるつもりはない。

脱衣室から出て出口に並んだスリッパの数々を見ると、それらはかなり使い込まれていた。ベテランさんたちなのだろう。
わたしのいるフロアは短期入院者ばかりで、話をすることもなくすれ違う人々の群れなのだが、よくも悪くもこんな感じで、風呂場で別の人間関係に触れるのも悪くない。

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新人2人来たる

20070314032750
昨日はあれから、もう一度看護師さんに自分の事情を訴え、双方納得の上、わたしは病室に帰ったのだった。
実に、時は午前4時であった。寝れるかい!(1時間寝たけど。)

看護師はあくまでも、同室者からの苦情はなかった、自分は彼女が眠っているかどうか見に行っただけだと主張したが、もちろん信じない。だが、ここで話は平行線になったので、わたしはそれじゃあと訴えを退け、その頃にはかなりましになっていた鼻ズルズルを控えめにしながらベッドでしばらく悶々としていた。…まったく忌々しい。

ところで、そんな現状に追い風が吹いた。
4人部屋なのだが、本日(昨日)新人2人が入ってきたのである。やった!これで病室内のパワーバランスが変わる。

一人はとても真面目そうな拒食症の女子だった。もう一人は声しか聞いていないのだが、とても元気のない高齢女性である。
しかし二人ともかなり弱っている様子なので、あまり話は出来なかった。そのうち機会に恵まれるだろう…。

いま午前3時だが、ここ数日間、わたしはどうも眠れない。新たに眠剤の処方を変えてもらった方がよさそうだが、夜中に医師はいないので、今日のところはナースステーション前の喫茶室で鼻を派手に鳴らしながら座っている。昨日はなぜか午前3時過ぎにピタッと鼻詰まりが治まった。きっと腹を立てて興奮しすぎたか、時間的に交感神経が活発になったかどっちかだろう。

なので、これを書き上げたらわたしは再び病室に戻る予定である。
あとの3人が安眠出来ているといいけど。

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真夜中のホームレス

20070313015356
いま真夜中の2時です。
わたしはいま、なぜかコーヒーとともにトイレにこもっています。

いつも夜中に何度か目が覚めるのですが、そのとき眠剤の追加をもらいに行ったりブログを書いたりしています。
でもそれが同室者にとって苦痛だったのか、さっき汗をかいたので着替えていたら彼女は小さな舌打ちとともに出ていき、直後に看護師さんが「夜は静かにしてね」と言ってきました。

同室者を責めるつもりはありません。わたしもひどく眠れなかった時期は、少しの物音でも目が覚めてすごくしんどかったです。

でも…普通の人が出す音程度で苦情を言われたら、いまのわたしは戸惑ってしまいます。花粉症がひどくて、しょっちゅう鼻をすすっていますし、彼女にとって「うるさい」かもしれませんが、人形のように静かに横たわっているのは無理です。

それで看護師さんと押し問答して、結局わたしは院内ホームレス状態…あー寒い。靴下履いてくればよかった。
まいったなー。

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買い物とお茶と虚と

20070312051620
顔の発疹が治らないので、病室にこもってTVや雑誌をぼーっと見ている。
一昨日、突然担当医が病室に現れて「これはやっぱり薬のせいじゃないな」と診断した。
「でも、あと2、3日は抗鬱剤をやめて様子をみましょうね」
彼はこのとき、前回の対応とは打って変わってニコニコと患者を思いやる懐の深い医師になっていた。わたしは他意なくほっとしたが、同時にこの態度の使い分けはなんなんだろう?と考えずにはいられなかった。なんかの心理作戦だろうか。ほんとうにわからない。

人前には出たくなかったのだが、同じ入院患者Iさんが近所のスーパーに出かけると言うので、わたしもダウンジャケットを掴みブーツを履いて、彼女についていった。

このスーパーは鬼門で、毎日が退屈な入院患者としてはつい、余計なものを買ってしまう。
この日も、無難な靴下とレギンスを買ってしまった。
わたしは物事を決めるのが苦手で、ちょっとしたものを買うのにも深く考え込んでしまうのだが、このときはIさんが「これかわいいやん」「春はやっぱりこっちでしょ」と決めてくれたので、早く済んだ。こういう人がいると楽である。

買い物が済むと、のんびり20分くらい歩いて病院に戻り、野菜ジュースだのコーヒーだの飲みながら、鬱病患者同士ぼそぼそ小さくおしゃべりをした。普通の人の会話は、ペースが早いし音量が高いので疲れるのである。わたしだって、ほんの3週間前までは爆音の中で怒鳴りながら酒を飲んでいたわけだが、鬱になると人が変わってこうだ。人間の脳って、ほんとにわからない。

夕食のあと、わたしは最近の日課であるTVのバラエティ見物をした。頭の中に半分くらいしか入っていないが、適度な音と光の刺激がなんかいい感じなのである。
9時に消灯になって、ぼんやりとしばらく虚を見つめたあと、やがてベッドに入る。夜中にこうして何度か起きるが、眠れなくて苦しいというほどでもない。

そしてまた、一日が終わった。
湯治のような、こんなぬるい生活は、いまの自分に合っていると思う。

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デキモノと薬と医師と

20070310061104
どこから話してどこまで話せばいいのだろう。
とにかく、わたしは顔にいっぱい出来たブツブツを気にして、早々と担当医に診察依頼を出したのだった。

彼は忙しかったのか、いつになく憤然としていた。そして言った、「それが薬疹だと思ってるの?」
ほかになにがあるんだろう?わたしは一瞬戸惑った。わからないから聞いてるんじゃないか。そして言った。「その可能性もあるんじゃないかと…」
医師は続けた、「この前出したアレルギーの薬でそんなふうになったりせぇへんわ」
「市販の噴射型の鼻炎薬の影響でしょうか?…」
「よそで買った薬のことは知りません!」
「薬剤師さんがニキビ出ませんかとか言われてましたが、抗鬱剤の影響は…?」
「じゃ抗鬱剤やめますか?」
「ほかの薬を使う選択はないんですか?」
「ほかの抗鬱剤なんかありません!!」

最後の方は、顔のデキモノなんて俺は知らねえよの態度であった。
わたしは察した、この人は自分が出した処方に疑いをもつ患者が気に食わないのだ。
そういえば、ずっと前にもロヒプノールという睡眠薬の習慣性について尋ねたときもこんな感じだった。前の担当医から習慣性があると聞いていたからやめられないものかと思って尋ねたのだが、「そんなものはありません!」と言い放ち、「素人がいろいろ聞きかじってきやがって」の態度を見せたのだった。
しかし、それ以外ではざっくばらんに接してくれたりして、意外とフレンドリーなところもある医者なのだ。問題は、勝手に薬の処方を変えたり――そう、今朝薬が変わったことをわたしは告げられていなかった――薬、のことなのだ。

「ほかに抗鬱剤がないなんて馬鹿な話、ないですよねえ」
とわたしは同じ入院患者のIさんにぼやいた。Iさんは「医師は製薬会社と繋がってますからねえ」と言った。
二人でひとしきりお互いをぼやいたあと、わたしはもうこの病院では余計な抵抗はすまいと考えた。ハイハイ言っておとなしくしていればいいのだ。そのうち病気はほっておいても治る。

「まるで囚人になった気分ですよ」とIさんが言った。
「わたしは羊になって飼われている気分です」とわたしは言った。

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顔にぶつぶつ

20070309051846
滅多にニキビの出ない体質なのだが、入院してからおでこに2つ出来た。
珍しいなと思っていたら、今度は顔全体にほんのりと赤いブツブツが…!ひぇーー!!(ムンクの叫び)

夜中だが、早速看護師さんに相談する。あーほんとですね…ってことで、明日(今日)診察してもらうことにした。入院の便利なところである。

しかしこれってたぶん薬の副作用だよな…。新しく処方されている抗鬱剤かアレルギー薬のどっちかだと思う。
あ~嘆かわしい!肌のツルツルがないともう、それだけで女は鬱になるのだ。

それでわたしは秘かに、明日(今日)の朝の薬は飲まない決心をした。精神科では通常、手渡された薬を看護師さんの前で飲む。でもまさかその後で口開いてみせろって言われる訳じゃないからね。飲んだふりなんて余裕である。

…てなことをゆき妹にメールで話したら(彼女は不眠で朝が早い。)、抗鬱剤の一部は強い禁断症状が出るよとのことだった。
むぅ。だがここで諦めてはなるまい。薬の自己中止は大変よろしくないが、一回ぶんだけなら…命より大切な(嘘)美容のために許しておくれ。

※よい子のみんなは真似しないように!!

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新品ヘッドセット来たる

20070308114832
毎朝、病室のTVに100円玉を入れて朝にニュース、夜にバラエティを見ている。貸しTVは100円で24時間となかなか良心的な価格だ。

ところが昨日の朝、突然イヤホン代わりのヘッドセットの右耳側が壊れてしまった。片側からしか聞こえてこない音って、実に不愉快だ!
なんとなく気持ち悪いなあと思って恋人Sにメールでぼやいたら、昼過ぎSから、近くに寄るから買っていってやるよという神の声が返ってきた。わーお。こんなことってあるのね。

それでわたしは、Sが北風とともに運んでくれた素敵なヘッドセット(1000円/税込み)で、その夜もヤラセの匂いぷんぷんのバラエティを楽しむことが出来たのである。
一日の締めくくりに、頭をリセットすると、なんだか気持ちよく眠れるような気がする。

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院内での人付き合いとか

20070307042829
入院してから、特に親しい人間をつくっていない。なんとなく知らない人の話なんか聞きたくない気持ちなのだ。とくに、精神科では自分のことを切々と語る人が多いから、こっちまで気が減入ってしまう。

わたしのいまの日常は、雑誌とTVとコーヒーと散歩・買い物で成り立っている。外部の人々といつでもメールで話せるし、一人でもいまのところ全然苦痛じゃない。

同室者はいま20代Kさん一人だが、この人は気分にムラがありすぎるので、ちょっと付き合い切れない。お互いほとんど話をしない病室には、鼻炎のわたしの鼻を派手にすする音が響くばかりである。
それにしてもこの人、よくバリバリお菓子の袋を開ける音がするなあと思ったら、過食症だった。鬱病になった経緯はわたしととても似ているのだが、人格も含めわからないところが多すぎるので、いまのところKさんに無理に踏み込むことはすまいと考えている。

わたしがいま、唯一挨拶するのは、約1年前に入院したときにもいたある高齢女性である。そういえば、精神科病棟ってちっともお互い挨拶をしない。会釈さえあまりしない。それが、患者同士のいさかいが多い原因のひとつかも知れない。

わたしも周囲からはちょっと呆けてしまった人だと認識されているようなので(事実だが)、とうぶん気の合う話し相手を得ることはないだろう。そういうことがあるとすれば、たぶん誰にとっても迷惑行為をする問題患者が入ってきたときである。

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天候と体調と

20070305150647
天候の悪さは、鬱病とかリウマチとかそーいった病気の人にとって時折うらめしいものになるようだが、今日のわたしもそんな感じかも知れない。

病室でTVを観ながら一人朝食をとったところまではよかった。ところが、そのあと雑誌とコーヒーを持って喫茶室に来たとたん、身体がだら~っと力を失ってやたらしんどいのである。
先日、ここで《女性セブン》を拡げたときはこんなことはなかった。内容が頭に入らないのは同じだが…わたしは考えた、これはやっぱり天候のせいかも知れない。

今日の大阪は雨と風で荒れ模様である。しかし、自分自身が雨や風に当たっているわけでもないのに、どうしてこれらが体調を悪くするんだろう。まったくわけがわからない。

午後、すこし昼寝をしてもう一度喫茶室に来てみた。今日の雑誌は《CanCam》である。紙面を拡げてみる。うーんキラキラしすぎ…脳への刺激が強すぎる。
春物の服チェックをするつもりだったが、今日はちょっと厳しいかも知れない。
わたしはいま、刺激が少ないどこか情けなさを漂わせた雑誌を所望している。

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身長が動かない。

20070304033316
恋人Sが見舞いに来てくれた。
だがわたしはうっかり消音モードの携帯電話に目覚ましをかけて寝ていて、起きたのは偶然彼が病院に着いた2分後だった。

急いで病室を出るも、身体がおかしい…。なかなか動かないのだ。午前中は調子がよかったのに。時間や日によって、症状の程度がやや変わる。

病院の夕食を止めてしまったので、二人で寿司など食べに行く。しかしわたしはもう、座っているのもしんどかった。テーブルにつっぷしたい。でも、ここでそれをやったら周りがわたしを見るだろう。

せっかくなのだが、病院に戻ってお菓子をつまんだ。
わたしは病院の喫茶室にあるソファに寝転びながら、せんべいをかじった。「空を見ながらせんべいを食べる人を初めて見た」と恋人Sが言った。
看護師さんがわたしを呼んで、「薬ですよ」とやかんを持ってきたが、わたしはほんとうに動けなかった。一点を見つめてぼーっとしている感じである。それを見た看護師さんがあとにしますかと言って行きかけたが、わたしは用を残したくなかったので、必死で起き上がって薬を飲んだ。

いまはその夜中だが、このくらいの時間がいちばん楽かも知れない。
とにかく、今回の鬱はちょっと手強い。

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女性セブンの日

20070301173025
今日も朝から具合がよくない。…と書くと、どこがどうよくないんだ?と必ず訊かれるが、これはどう形容してもうまく伝わらない…たぶん鬱病になった人でないとわからないと思う。なんだか突き放したような言い方になってしまったが、ともかくそんなわけでわたしはベッドで固まっていた。

検温に来た看護師さんに、「ずっとベッドにいるより病棟内の喫茶室にでもいた方がいいかもよ?」と言われ、考えるアタマのないわたしはじゃそうするかと思って、売店で《女性セブン》を買ってコーヒーとともに一つのテーブルに籠城した。
周りには誰もいない。明るい陽がさしている。

わたしは雑誌を開いてぼーっと読むふりをして目をつぶったり頬杖をついたりした。雑誌なんかどうせ読めないのだ。一昨日もTVガイドみたいなものを買って開いてみたが、同じページを何時間も見つめている自分がいた。なんだか、油の切れたロボットのようだ。いまだって、頭がぼーっとして考えがうまく前に進まない。

《女性セブン》は結局、1/3ほど見て諦めた。こういうときは、アホくさい広告みたいなものを眺めているのがいい…というのは、わたしの短くない闘病生活の中でついた知恵である。今日は《女性セブン》の日だった。これでいいのだ。たった一つのことでも出来れば。

しかし結果的にわたしはその後、天気のよさにつられて、20分ほど歩いて100円均一の店にも行った。目的は、爪ヤスリである。より目になって、バカくさくのんびり爪でも眺めようと思ったのだ。そしてその通りにした。床を磨いていたおばちゃんに、爪綺麗にしてるのねーと誉めてもらった。ハゲハゲのマニキュアだったので、盛大なお世辞かきっと目が悪かったのだろう。

そんな感じで、今日の一日が終わろうとしている。

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