脱毛が始まる。 - LIFE,LOVE&PAIN

LIFE,LOVE&PAIN

タイトルは Club Nouveau の80`sのアルバム名。人生っていろいろあるよね。
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脱毛が始まる。

red-bandana

末期ガンの父が、「髪の毛が抜け始めた」と言い出した。
見ると、確かに薄くなっている。
抜け始めると、早いんだな。
父は、「髪の毛が抜けたりしたら、治療をやめる」と宣言していた。

それで、朝食はシーンと静かだった。
母がまた、とやかく言ったに違いない。
この人は、家族を自分の手足だと勘違いしているから、手足が思うようにいかないとイライラぶつけてくるのだ。
母は父に、病気だからといって気弱なことを言わずに、ドーンと構えてほしいと考えている。
確かに母は、そういうことができるような感じもするが、それは人それぞれだろう・・・。
父は、わたしに宣言するように言った。

「髪の毛がこう抜けたら、あとは戻らんもんかのう」
「治療法変えたら、生えてくるよ。小林麻央も生えてるよ」
「えっ、放射線?」←母。
「やめたら、生えてくるねん」

そんなことも知らずに、喧嘩していたのか。
なんか、これからは二人の間に、わたしが仲介した方がいいのかもしれないな・・・。

父が去ったあと、母がぼやいた。
「お父さん、昨日もすごい剣幕で降りてきて、小遣いもらうなんてバカバカしい、俺の金やから俺が管理する、とか急に言い出すねん。そんなこと言われても、困るわ」
「・・・でも妹のとき、わたしが金いっぱい持ってていいなって言うたら、ママさん本人が、財布握られてる方は、好きに使われへんからしんどいねんで、って言うたやんか」
「そらそうやけど」
「好きにさせたりーな。死ぬまでしんどいの、嫌やろ」

母は、想像力というものがまったく欠如しているので、ただ訳もわからず、父が我儘を言っていると思っているのだ。
でも、わたしは考えた。
死ぬ間際・・・、自由に歩けるのはあとわずか。
どこかへ、ふらっと出ていきたい。――故郷の大分へ。
でも、自由にできるお金がない。行くというと、ガミガミ叱り飛ばす嫁がいる。
いや、俺は自由になりたいんだ。お金だけは持っておいて、いつでも行けるという夢だけは持っておきたいんだ。

まーこんなところじゃないのかな、とわたしは想像した。
そういえば、ユニクロで、「腹水が溜まっても、外でも穿けるゆるいズボン」を買うって言ってたな。
やっぱり、夢を持っているのかなー。
突然、父が「ちょっと大分に行ってくる。お母さんには内緒で」と言って出ていっても、わたしは止めないな。
まるでそれは、死にかけの家猫が、「死ぬ前に一度でいいから、外に出して。絶対帰ってくるから」とお願いしているようなもの。
母はなんとも思わないだろうけど、わたしなら一生こころが痛むね。
夫婦にしかわからない問題もあるだろうけど、わたしは子どもとして、なにかを実行するかもしれないな。


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